駅の改札を出て階段を降りている途中、いつもの場所に立っている父の姿が目に入った。父の隣には愛犬のリュウがちょこんと座っている。
「ただいま。」
「おかえり。」
リュウがしっぽを振りながら私に飛びついてくる。父からリードを受け取ると、リュウが勢いよく家の方向に向かって歩き出した。
「もう迎えに来なくていいのに。」
「うん、でもリュウが散歩に行きたがるから。」
あれは半年前のこと。駅前でオートバイと接触して私は軽い怪我を負った。それ以来、何時だろうと私を駅まで迎えに来るのが父の日課になった。
母に聞かされた話なのだけれど。事故の知らせを聞いて、父は心の底から心配したらしい。半年前に離婚して出戻った私が、思い余って道路に飛び出したんじゃないかと思ったそうだ。
リュウが前を歩く父を一生懸命追いかける。
「お父さん、私ね。」
父が少し歩調を緩めた。
「もう一度挑戦してみようと思うんだ、税理士。」
会社員時代に税理士を目指していたのだけれど、結婚を機に夫の仕事を手伝うために税理士の勉強から離れていた。
「うん、やったらいいよ。がんばれよ。」
こちらを振り向くことなく、父はひたすら歩き続ける。その後ろを追いかけるリュウと私を、街の明かりが照らしていた。
7/8/2024, 2:04:07 PM