Ryu

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君と二人、雨に佇む。
傘はひとつ、滴る水滴に肩は濡れ、雨は止みそうにない。
どこかの軒先で雨宿りを、と思ったが、君はその場を離れなかった。

坂の上の高台。遠くに海が見える。
海の色も空の色も灰色に染まり、気持ちも少しずつ沈んでゆく。
「明日は晴れるかな?」
君がポツリとつぶやいた。
「晴れたら、何がしたい?」
灰色の空を見上げながら、君は少し考えて、
「あなたと、海辺を歩きたい」

雨が上がるまで、一緒にいようと決めた。
そして、雨が上がったら、お別れしようと。
君と海辺を歩く日は、きっと来ないだろう。
遠く、雨に霞む海岸線に、二人が肩を並べて歩く姿を重ねようとしたが、うまくいかなかった。

夏の終わり、挙式を控えた君の横顔は、あの頃と何ら変わっていないのに、僕達の関係はすっかり変わってしまった。
恋人ではなく、大切な人。
過去に恋愛の真似事もしたが、続かなかった二人。
だけど、僕にとって君は今でも、大切な人。

「…このまま、雨が上がらなかったら?」
君が首を傾げて聞く。
「止まない雨はないよ」
つまらない答えで君を遠ざける。

降りしきる雨に、このままずっと、と願いをかければ、何かが変わるのだろうか。
青空の下、海辺を歩く二人の姿がそこにはあるのだろうか。
いや…そんな未来は望んでいない。
僕も…きっと、君も。

夜の手前で、雨は上がった。
僕は君に別れを告げた。
「別に、サヨナラしなくたっていいんじゃない?」
無邪気を装って君が言う。
「いつまでも、子供じゃいられないから」
君に説明できる理由など、僕は持ち合わせていない。
「子供時代とサヨナラするの?」
たぶん、無邪気な頃の二人に戻ってしまうことを恐れてる。
「子供の頃から、大切だった人に」
街の明かりが灯り始めた。

これは、僕の感情の身勝手な暴走だ。
暴走を止めるための身勝手な儀式だ。
君が去った高台で、雨に佇み君の幸せを願う。
愚かな生き物が、君と彼の幸せを願う。

8/27/2024, 1:49:59 PM