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 口角を上げて、顔の筋肉で頬を持ち上げて鏡に向かって笑顔の練習。
 そのまま保って数十秒。ぷるぷると頬が震え、口の端が限界だというようにひきつった。

 「疲れた…」
 よく笑う子が好きだと彼が言っていたのを思い出して
私、笑ってたっけ?と不安になりこの行動に至る。意識して作るとぎこちなさが際立っていた。笑顔って難しい。
 指先で頬を労るようにマッサージする。鏡の自分はむにむにと頬で遊んでいた。

 笑顔…。道化師のように常に笑う必要はなくて。
 必要な時に必要なだけ笑顔を作れたなら、彼の好きにも近づけるし生きるうえできっと武器になる。けど、彼が好きな表情を自ら作り出すのは、やっぱり難しい。
「うーん…。」
 疲労も少しだけましになった。もう一度練習でもしようか。
「さっきから何してるんだい?」
「っわぁ!?」
 背後からぬっと現れた彼に驚いて飛び上がってしまった。気配なんてなかった。
「鏡に向かって百面相?」
ことの経緯を彼に話すと少し考えて

「俺といる時はいつも笑顔だよ。よく笑う子って君のこと」
なんだ、よかった。彼の好きに当てはまっていた。口もとが緩むのを感じる。
「ほら、今。」

「俺の好きな『笑顔(スマイル)』だ」
「君って君が思う以上に素直だから顔に出やすいんだよ」と言われ、それはそれで恥ずかしかった。

2/8/2023, 11:56:35 PM