ゆきんこ

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「はあ……はあ…………」
 じっとりと額を流れていく冷や汗。さっきまで見ていた悪夢が、まだ脳内に焼き付いている。現実離れした内容なのに、現実に起きそうな嫌な感覚がまとわりついてぼくを離さない。
 一体どうしてだろう。最近見る夢はどれも現実離れした悪夢ばかりだ。ある日は得体の知れない怪獣のようなものに追いかけられてみたり、またある日は拷問されている人を眺めていたり。それはもう気持ちが悪くて、また寝ようなどという気持ちが全く湧いてこない。何度寝たとて悪夢を見て飛び起きそうな、嫌な予感がぼくをしっかりと捉えて「寝るな」と警告しているみたいだ。
 確かにぼくは生まれつき運が悪い。何をしても裏目に出るし、何も起きずに外出を終えられたこともない。だからといって睡眠まで奪われてしまえばその先に待っているのは【死】のみだ。それだけは避けたい。
「ふぅー……」
 やっと乱れていた呼吸が落ち着いてきた。カラカラに渇いた喉を潤そうと、スマホの灯りを頼りにキッチンに向かった。コップを手に取り水を入れようと蛇口を捻るも、水が出ない。今日は30度を超えた熱帯夜だ、水が凍っているはずなどない。かといって水道の水が自然の熱で蒸発するはずもない。こんなことがたまにあるのだ。
 やはりぼくは運が悪い。
 諦めて冷蔵庫の牛乳を取り出すことにした。少しずつコップを満たしていく、ほんのりと甘い香りを放つ白い液体。一気に飲み干せば口いっぱいに香りより強い甘みが押し寄せて身体中に染み渡っていく。潤った喉に満足してベッドに戻ろうと思った時、ふと窓の外が目に入った。
「……綺麗。」
 いつもは気にも留めなかった窓の外。そこには無数の星々が煌めいていた。一階だからか他の家に阻まれてあまり見えないけど、それでも物凄く綺麗だ。

 なんだか無性に嬉しくなって気がつけば数時間見とれていたらしい。真っ暗だった空はいつの間にか白みがかっていた。今日も仕事があることなんて気にもならないくらいゆっくりとした時間を過ごせたのは、認めたくないけど悪夢のおかげだ。ぼくの運の悪さも少しは役に立つ日があるんだ。
 少しだけ、ぼくは自分を好きになれた気がした。


お題【暗がりの中で】

10/28/2024, 5:42:05 PM