「セーター」(創作)
彼の家で夕飯を食べる約束をしていた。料理が苦手な私が簡単に作れるものとして上げられるのは、鍋。
白菜、白ネギ、しいたけ、鶏のつくね、しらたき…
「あ!豆腐買うの忘れてる」
「いいよ、豆腐無くても」
彼が言うが早いか、私は鞄を持って靴を履こうと玄関に向かっていた。
「え?!行くの?ちょっと、待った!長T
1枚じゃ、さすがに寒いって」
「あ、そうだね…」
彼は慌てて着ていた黒いセーターを脱ぎ、私の頭から被せた。
襟ぐりから頭が出た瞬間、ふわんと彼の香りが鼻に残る。
あったかい…。
「すぐ戻るから、まっててね」
そう言って私は、豆腐のために寒い夜に飛び出した。
上手くいってたのにな。私たち。
別れてから5年も経つのに、未だにあのセーターがタンスの中で眠っている。
決して未練がある訳でもないのだが、私の中で、彼との事は良い思い出だったからという理由で残してあったんだと思う。
「いつ捨てようかな…」
そんなことを考えながら、今はひとりで鍋をつついて食べている。
11/24/2024, 2:31:00 PM