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 夕暮れ時。いつもならもう家に帰っている時間。私は今日、お母さんに学校の用事で遅くなるなんて嘘をついて公園のブランコで1人座っていた。
「………言えるわけないよな」
今、高校3年生の私は進路を決めなければいけなかった
お母さんが望んでいるものは医者。
正直、私が好きなのは絵だ。だから、
そのことを勇気を出して言おうとしたことがあった。


「お母さん…ちょっと今いいかな?」
「あら、どうしたの」
「えっと、その 進路のことなんだけど」
「…お金のこと?」
「えっ」
「いいのよ。心配しなくても むつみの夢なら私たち
 応援するからね 好きなところを選びなさい」
「…!ありがとう!あのね…!」
「あー、そうそう 良さそうな大学を私も調べてみた
 のよ」

 そう言って差し出された母親の手にあったのは、
医大のパンフレットだった。

「あ…」
「ほらこことかどう? 家からは少し遠いけど、
 評価がとってもいいのよ」
「……えっと う、うん!すごくいいところだね
 お母さん調べてくれてありがと」
「いいのよ でも全然他のところでもいいからね」
「うん… あ、私上で勉強してくるね」
「そう、頑張ってね」
「分かった」


 気の弱い私があんな場面で医大以外の大学に行きたい
なんて言えるはずがなかった。

「…………いままで頑張って練習してきたけど…
 もう意味はないかな」

 そう思うと涙が出てきて、私はそれを振り払うみたいに思いっきりブランコをこいだ。

「あれ?むつみ?」
 
 後ろの方から声が聞こえた。私は急いで涙を拭いて、笑顔を作ってから、後ろを振り向いた。

「今日は、なつみ帰るの遅かったんだね」
「うん、部活が長引いちゃってさ、むつみはどうした
 の?いつもなら急いで帰ってる時間なのに」
「…なんでもないよ 今日はお母さん帰り遅いから
 ちょっとのんびりしてただけ」
「ふーん… むつみ!」
「え、何?」
「あ、そこまで走ろ」
「え?なんd」

 グイッと腕を引かれて私も一緒に走った。波止場に着いた時には、私もなつみも息が切れていてゼェゼェ言っていた。こんなに思いっきり走ったのは久しぶりかもしれない。私は息を整えてからなつみに聞いた。

「どうしたの?いきなり走ろうだなんて」
「…なんか思いつめてるみたいだったから」
「え…、」
「隠せるとでも思った? 全く…
 何年一緒にいると思ってんの」
「16年」
「そこは答えるとこじゃない!」
「…ふふっ」
「あ! やっと笑った」
「え、笑ってたでしょ?」
「作り笑い。」

 なんでわかってしまうんだろう。自然に身に着いたものだし、練習したわけでもないけれど、結構自信があったのに。これを言ったらそんなのに自信を持つななんて怒られそうだけど、笑

「そうだね。やっぱすごいや」
「当たり前! よし!次は鬼ごっこだ!」
「え、また走るの?」
「むつみ鬼ね! 10秒数えたら来て」
「え?!拒否権無し!?」

 勝手に鬼ごっこを始めて、なつみは公園の方向に走って逃げていった。

「… 本当昔から変わんないな」
「むつみー! もう10秒たったでしょ。早く来てー!」

 遠くからなつみの声がした。…今だけは全部忘れて、子供の頃に戻ったように遊ぼうか?
 まあ、たまにはそんなこともあっていいかな

「行くよー!!」

 思いっきり叫んでから、私は駆け出した。

10/14/2022, 12:00:01 PM