霜月 朔(創作)

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夢見る少女のように




貴方はいつも、
苦しんでいました。

目立たぬように、
身体を丸め、影を歩き、
嘆きや呻きを漏らさぬように、
奥歯を噛み締めて。

きっと貴方は、
人と人が、騙し合い奪い合い、
憎悪と腐臭で満ち溢れた、
こんな穢れきった世の中で、
生きていくには、
余りに優しすぎたのです。

そう。
塵屑の様に捨てられ、
壊れかけていた私に、
手を差し伸べるほどに、
貴方の心は、温かく美しく、
脆かったのです。

いつか誰かに、
貴方を壊されてしまう。
いつか何処かで、
貴方は壊れてしまう。
いつの間にか、私の中に、
何かが生まれました。

だから、私は…。

夢見る少女のように、
荒唐無稽な夢を語り、
貴方の温もりに、
身を沈め、溺れます。

私は少女ではありません。
だから、夢見るだけでは、
身体を満たせないのです。
身も、心も、
私で埋め尽くし、
貴方と一つになりたいのです。

貴方は、どこまでも優しく、
激しい愛情と情欲の波に囚われ、
貴方の全てを求める私を、
受け止めてくれました。

なのに、私は…。

夢見る少女のように、
不確かな瞳で微笑み、
貴方の首元に、
そっと手を伸ばします。

私は少女ではありません。
だから、夢見るだけでは、
心を満たせないのです。
生命も、魂も、
私で埋め尽くし、
貴方と一つとなりたいのです。

貴方は、どこまでも温かく、
狂気にも似た感情に囚われ、
貴方の全てを奪おうとする私を、
受け止めてくれました。

旅立ちを前に、
物言わぬ貴方の隣で、
夢見る少女のような、
天衣無縫な誓いを立てます。

永遠に、貴方の側に…。

6/8/2025, 9:38:52 AM