『子供のように』生きたい。
具体的に言うと、お金に縛られることなく生きたい。
税金や預金残高や水道光熱費、家賃、食費に怯えることなく生きたい。
例えるとするなら、そう、子供の頃の夏休みの朝、なんの不安もなく、しかし面倒臭いなぁと思いながらラジオ体操会場の広場に向かい、誰だか分からないおばさんにラジオ体操カードにスタンプを押してもらって、帰ってきて朝ごはんを食べていたあの頃のように。
大人になって思う。
なぜ、生きるだけでお金がかかるのだ……罰金か何かなのか? 俺がなんの罪を犯したというのだ……
俺はただ、ラジオ体操をして、セミの抜け殻を集めて、婆ちゃんの作ってくれたソウメンを食べて、友達とプールに行きたいだけなのに……
子供の頃、恐竜が好きだった。
母さん曰く、子供の頃の俺は恐竜図鑑に載っている恐竜の名前を全て暗記していて、「これは何?」と訊ねると、一字一句間違うことなく正式名称を答えられたそうだ。
そんな俺の子供の頃の夢は、もちろん恐竜博士だった。正式にいうと古生物学者……だろうか……?
……が、今では恐竜の名前は、ほとんどわからない。ティラノサウルスとトリケラトプス、かろうじてプテラノドンが見分けられるくらいだ。
(くそ……あの頃、もっと真剣に勉強していれば……!)
職場のから揚げ屋でカラアゲをパック詰めしながら、たまにそう思う。
しかし、それは大きな間違いだ。俺の勝手な想像かもしれないが、おそらく、専門職に就ける人達はブレることなく、それだけを一途に好きな人たちだと思う。
小さい頃、好きだったものを見限り、テレビゲームやアニメや漫画に逃げた俺とは根本的に違うのだ。
だがテレビゲームやアニメや漫画が悪いかというと、そうではない。人生の教訓として、教えて貰ったことは沢山ある。たとえば、それらの媒体において共通して、いきがっているヤツは大体ひどい目に遭う。また、弱いモノいじめをしているヤツも悲惨なことになる。おそろしいことだ。だから俺はやらない。
また、俺の好きな漫画の主人公がこのように独白する。
『愚か者は、いつも過去を悔やむのだ』
「俺のことじゃねえか!!」
キレ散らかしそうになったが、かろうじて堪える。
……まぁ、なんだ。なんの話だったか。
そう、俺は、ただ、子供のように生きたいのだ。
しかし現在の俺は立派な大人だ。大人になった俺を誰も甘やかしてはくれないし、失礼な態度を見過ごしてくれたりもしない。大人なのだから当たり前である。
それを許してくれる人を見つけるというのも、いい歳して、それはただの他者に対する甘えでしかない。
同い年の皆と同じラインに立つのだ。大人にならなければならない。そこがスタートラインだ。
けど、大人になるってどういうことなのだろうか。
当然、最低限の礼儀や立ち居振る舞いは身に着けているが、それは大人の皮をかぶっているだけだ。思いっきりふざけろ!と拳銃を突き付けられて命令されれば、今すぐにでも小学五年生に戻れる。
子供、大人、子供、大人、子供……
考えてもわからない。ただ一つわかるのは、
俺は、恐竜図鑑を暗記してる俺を見て喜ぶ母さんの笑顔が嬉しかっただけで、実は俺自身はそれほど恐竜博士になりたくなかったのではないかということだけだ。
10/13/2024, 11:04:43 AM