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今はもう小さくなった街に手をかざしながら考える。
あの人にとって私とは、これほどちっぽけな存在だったのだろうか。
白銀に染まる港も、教会から聞こえるノエルも、この寒さでさえも、今は色褪せて何も感じない。
あの人といた時には美しいと感じたあの日々も記憶も、今はただ胸を締め付ける凶器となってしまった。
ふと、痛いくらいに冷えた夜風から潮の香りが漂ってくる。
その方向へ顔を向けると、聖歌隊のように並ぶクラゲが何も考えずゆらゆらと揺れているのが見えた。
あぁ、これではまるで海の夜風にでさえ疎まれているようではないか。
だけど、もういい。私の描いてきた今日も、今は呪いのように縛りついて離れない日々も、全て波に乗せて攫ってくれそうな気がしたから。
私は靴と靴下を脱ぎ、刺すように冷たい水面に足をつける。
だんだんと潮は満ちていき、爪先から足首。足首から膝下と私を飲み込んでいった。
神の降誕を伝えた星も御業も、一欠片の希望でさえもないのならば……
きっと底はとても冷たいのだろう。
それでも、あのクラゲたちのように何も考えずあの人を忘れてしまえるのならばいっそ、光も通さず、眠りすらわからない水底へ沈んでしまおう。
これが、私からあの人へ贈る“クリスマスプレゼント“。
愛しい貴女、きっと幸せになって……そして幸せであって、生きていますように。

6/3/2024, 2:46:15 PM