未知亜

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 眠い……眠すぎる……。
 いつものように自席に座って買ったばかりのおにぎりのフィルムを剥いだところで力尽きた。食欲より睡眠欲が買ってるなんて信じられない。よく会社まで辿り着けたものだ、私。
 半ば押し付けられるようにして借りたDVDを、結局最後まで一気見してしまったのだ。すれ違い方があるあるだなーと思いながら、そろそろ1時かと思ったあたりまでは覚えてるんだけど、次に時計を見たのは外が明るくなったせいで。
「先輩さては、最後まで見たでしょ?」
 隣に座った水谷さんが「おはようございます」をすっ飛ばして本題に切り込む。
「いやもう、とにかく余韻がヤバくて……!」
 私の頭に走馬灯のように今朝見た風景がなだれ込んだ。
「こんなに綺麗だったのかって思ったね、この世界は」
 我ながら馬鹿みたいだなと思いながらも上手く頭が回らず、握り締めたおにぎりを変形させる勢いでそれだけ言うと、
「なんですかそれ」
 ノートパソコンを開いた水谷さんは「なんですかそれ」と冷たく言い放った。あれ? もしかして温度感違う感じ?
 ロックコードを打ち込んだ指先が止まる。
「感想として、最っ高すぎます」
 前を向いたまま呟くと、彼女は茶色がかった髪をふわりと揺らし、結んだ口許を手でぐっと覆った。

#300『この世界は』

1/16/2026, 9:14:38 AM