私の自慢の彼氏。
この人はお金だって、権力だって、イケてる容姿だって、大人の余裕だって、何でも持っている。
今日はどうしたんだろう?急に呼び出して…しかもいつもよりもお洒落なレストラン。
やっぱりこれは、サプライズプロポーズだ。
彼氏の手の中で、光り輝くダイヤの指輪。
色とりどりの、これまでに見た事のない素敵な花束。
夜景が見える、とってもお洒落な高級レストラン。
ずっとこの時を夢を見てきた。
これ以上ないほど豪華なプロポーズ。
『海莉(みれい)、僕と結婚してください。』
もちろん返事は、
「はい…私でいいなら、喜んで!」
『よかった。絶対幸せにするから。』
「っ!よろしくお願いします!!」
周りのお客さん、お店のオーナーさん、シェフさんたちまでもが、みんな私たちの幸せな瞬間に、色とりどりの拍手と歓声をくれた。
私は世界で1番の幸せ者だ。
この瞬間、何もかも手に入れたのだから。
…この時、私は知らなかった。この男がものすごく卑劣で最低なヤツだったなんて。
あんなに素敵なプロポーズ、私のことを本気で愛してくれている人がしてくれていたと、勘違いしていた。
でも、実際は違ったんだ…
今思えば、プロポーズが成功した時も、私が婚姻届を承諾した時も、子供が出来た時、生まれた時も、彼はあまり喜んではいなかった。
…気づける箇所は、いくらでもあった。でも、それを信じたくない自分がいたから。受け入れたくない現実に、目を逸らし続けていたから。
夫の暴力で身体は痣だらけ。家事も育児も何も手伝ってはくれない。まだこんなに幼い我が子にも怖い思いをさせてしまっている。
私は本当にバカだ。母親失格って、こういうことか…
そして今日も、アイツの帰りを脅えながら待っている。
幸せって、愛って、結婚って、一体なんだっけ…?
“うわぁ〜!カラフルで、すっごく綺麗なお花!!見てみてお母さん!!このお花たち、すっごく綺麗でしょ〜!”
「……あぁ、お花。そうね。とっても、綺麗、ね。」
“…ねぇ、お母さん、大丈夫?辛い時は、私がお母さんを慰めてあげる。泣いても、いいよ?”
「…う、うぅ…ごめん…ごめんねぇ…美香…お母さん、自分の子供に、こんなに、みっともない姿なんて見せて…何も、してあげられなくて、本当にごめんね…っ。、、」
“大丈夫だよ。みかが、お母さんをよしよししてあげる。お母さんが、いつもみかにしてくれてるみたいに。みかは、お母さんのこと、大好きだよ。”
「…ありがとね。はぁー、本当にダメね。お母さん。私も。美香のこと、愛してるわ。」
“ほんとー??みか、とっても嬉しい!!”
「美香は、素敵な旦那さん見つけて、幸せになってね。お母さんとの約束よ。」
“…だんな、さん?…でも、うん!私お母さんとのお約束、絶対守る!”
「あなたは、このお花たちみたいに、色とりどりの恋をして、本当の幸せを掴むの。わかった?」
“…??、、うん!幸せゲットする!”
「ふふ、よかった。……じゃあ、おうちに帰りましょうか。」
“う、うん…お父さん、帰ってくる?”
「ええ、帰ってくるわ。でも、美香のことは、ちゃんと私が守るから。」
“……うん…ありがとう。お母さん…”
「さ、帰ろっか!」
“…うん…!お母さん、夜ご飯何ー?”
「えーっと、今日は、美香の大好物のビーフシチュー!」
“わーい!!お母さんありがと!じゃあ、明日の朝ごはんは??”
「明日と朝ごはん!?えっとじゃー、何にしようかな…朝ごはんは………」
今日もアイツの元へ帰って、いつものように殴られ、蹴られ、涙を流す。でも、私が痛い思いをすることで自分の子供を守れるなら、私はちっとも苦ではない。
自分は不幸なままでいい。でも、美香が不幸になることだけは、絶対に許さない。
我が子にだけは、色とりどりの、幸せを…
1/8/2023, 3:43:30 PM