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優しくしないで…。

…(´・ω・`)ソンナコトイウナヨ

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時刻は午後3時。
1日の仕事の中で昼食の次に楽しみにしている時間だ。
助手が淹れてくれた美味しい日本茶に、美味しい栗饅頭。疲れた脳に嬉しいご褒美だ。
白餡と栗の甘みを堪能していると、助手が話しかけてきた。

「優しくしないでって言葉あるじゃないですか、アレって何でしょうね」

「っどうしたの急に」

「久しぶりに学生時代に読んだ恋愛モノを読み直していたら、台詞の中に出てきたんですよ」

あぁ、恋愛物語か。
すわ何かあったのかと思ったので、ちょっとホッとした。

助手は質問内容より本の内容を言いたいようだ。ヒロインが─とか、幼馴染が─とか熱弁している。
学生時代に読んだ時の気持ちが蘇って、作品にお熱なのかもしれない。

しかし、「優しくしないで」か。

優しくされちゃうと惚れちゃう的な流れでの台詞なのだろうか。
男の自分には縁遠い台詞だ。

ふと自分の言葉に違和感を感じて首を傾げる。

男の自分には縁遠い?
男でも優しくされたら勘違いしたりするし…性別は…関係ないのでは?
ん?じゃあ縁遠いのは男だからじゃなくて、別の問題?

「博士。はーかーせ」

「えっ」

眼の前で手をヒラヒラとさせている助手と目が合った。

「やっと気が付いた。遠い目をしてましたよ。大丈夫ですか?」

「あっ、ごめんね。ちょっと…その、考え事してた」

僕の言葉に助手は「顎に手を添えなくても考え中の時があるんですね」と不思議そうに呟いた。

えっ、僕そんな癖あったの?

「人の話も聞かない悪い博士は、何を考えていたんですか?」

茶目っ気たっぷりな表情で助手がからかってくる。
まったく、目をキラキラさせちゃって。悪戯好きの猫みたいだ。

「優しくしないでって、人生で言った事ないな…って…」

そこまで言って、何か不味い事を口走った様な気がして僕は慌てて口を噤んだ。

いつもだったら打てば響く助手が無言になってしまっている。
研究室の壁にかけられた時計の針の音だけが、カチカチと嫌に響く。

やばい。よくわからないけどやっぱり何かマズかったようだ。
頭を抱えたい気持ちをグッと堪えていると、助手の手が動いた。
白魚の手がそっと口元に添えられる。
暫しの間があった後、形の良い唇が言葉を発した。

「…多分、博士は優しい人だから。人からの好意を断れないんじゃないですか?」

その言葉に思わず僕はドキリとした。

図星だ。
僕は断ることが苦手だ。歳を重ねた今でも、断るべき時に断れず苦労していたりする。

内省へと傾く思考の一方で、聴覚は、まだまだ続く助手の言葉を具に拾っていく。

何だろう、博士って内心ではいっぱい抱えているけれど決して表には出さないじゃないですか。
いつも私とか周囲の人に優しくて気遣いも出来て、ニコニコ穏やかって凄いことですよ。
他者からの好意やお節介すらも取り敢えず「ありがとう」って受け入れるし、自身と違う意見とかがあってもそういうものとして知識にしていますよね。
多様性を受け入れる度量が博士にはあるんです。そういう大人な人だから、相手の事を拒絶したことが無いんだと思いますよ。

助手は、名推理と言わんばかりに満足げな顔をして自身の言葉に酔ってしまっている。

どうしよう。

凄い分析されている。
僕って他人から見てそんなわかり易い奴なのだろうか。
今まで出会ってきた人たちにも、色々バレバレだったのだろうか。

そう思うと、穴があったら今すぐにでも入ってしまいたい。そしてどうか暫くそっとしておいて欲しい。

羞恥心と照れのようなごちゃごちゃとした感情に堪えきれず、手で顔を覆うと、助手が追い打ちをかけてきた。

「博士は素敵な人ですから」
そう言う助手の声はどこまでも朗らかだった。

僕は、ぐるぐるとした感情に飲まれながら心の中で叫び声を上げていた。

助手よ、お願いだからこれ以上優しくしないで。
僕は、今混乱中です。

その叫びを最後に僕は、ぐるぐるとした感情に飲み込まれていった。

5/2/2024, 1:06:54 PM