花鈴

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「この中に入れてきたんですけど
蓋、開けますね」
『あぁ、確かに。これは収まりきらなかったでしょうね。初めてですか?』
「初めてです。びっくりしました。」
『そうでしょうね』
そんな会話をして、先生と私は暫くタッパーの中で激しく脈打つ私の心臓を見つめていた。
『で、戻すにしても、同じ感情を持ったままだとまた鼓動が激しくなるので、飛び出してきて無意味なんですよね。元になる感情を落ち着ける事は可能ですか?』
「ある人の事を思うと、激しくなるんですけど、思わずにはいられない状態です。」
『あの、恋煩いですかね?』
「はい、そうです」
『でしたら、サイレントタイプの物を入れますので、落ち着くまでこのまま好きに動かさせてやって下さい』
先生はそう言い、手術は親不知の抜糸よりも簡単に終わった。

タッパーよりも衛生的な入れ物に入れ替えてもらい、そのまま保冷バッグに入れて遅れて出社した。

憧れの君の姿が見えたので、はっと胸に手を当てたが、どくんどくんと鈍い音は机の横にかけた保冷バッグから聴こえてきた。

#胸の鼓動

9/8/2024, 10:19:15 PM