【天国と地獄】
[5/19 恋物語
[5/26 降り止まない雨
[5/27 月に願いを
続編
登場人物
鬼龍院 加寿磨
(きりゅういん かずま)
金城 小夜子
(きんじょう さよこ)
椎名 友子
(しいな ともこ)
「もしかして君は金城さんの引っ越し先を知っているかい?」
「知っているわ」
その時、雨が止み日が差してきた。
「お願いです。住所を教えて下さい」
「分かった。明日また、ここに来て」
「ありがとう。ところで、君の名前を教えてもらえますか」
「私は、椎名友子」
自宅に戻り、この数ヶ月の事を思い返す。長かった、辛かったでもやっとあの子の居場所が分かる。一度は諦めかけた。地獄の底に堕とされた。でも、一本の蜘蛛の糸が降りて来たのだ。ボクは必ずあの子の所まで登ってみせる。
次の日、ボクは約束の場所へ向かった。椎名さんはまだきていなかった。10分、20分たってもまだ来ない。昨日の事は夢だったのか?と思いかけた頃、椎名さんが現れた。
「こんにちは」ボクは挨拶をしたが、椎名さんはおじぎをするだけで、何だか浮かない顔をしている。
「どうかしましたか?」
「実は昨夜、小夜子に電話をしたんです。貴方が会いたがっている事を伝えました」
「小夜子さんは何と?」
「来てほしくないから、居場所は教えないで。と言われました」
「どうしてですか?」
「ごめんなさい、長い話しになるの、私、今日は塾で時間がないから、土曜日の午後まで待って下さい。もう一度、小夜子とも話してみますから」
‘プツ!’ 蜘蛛の糸が切れた。
再び、地獄へ真っ逆さまだ。
ボクは今までの事、あの子の手紙の事を思い起こしてみた。
あの子は、会って謝りたいと手紙に書いてあったのに、なぜ?
不安を取り除けないまま、土曜日の午後を迎えた。
「こんにちは、随分待たせてしまい、すいませんでした。小夜子の気持ちを話す前にカズ君は小夜子の事をどこまで知っているの?」
ボクは今までの経緯を全て話した。
登下校で彼女を見かけた事、ダメ元で飛ばした紙飛行機が奇跡的に彼女にとどいた事、彼女が事故の加害者の娘だった事、お父さんが亡くなり引っ越した事、そして、彼女がボク以上に傷ついている事。
「だから、君のせいじゃない、君は何も悪くない事を伝えたいんだ」
「引っ越した理由は知っているの?」
「それは、お父さんが亡くなったからじゃないですか」
「それはそうなんだけど...」
友子は少し間を置いてから再び話し出した。
「これから話す事は、言わないでほしいって小夜子に言われたんだけど、言わなければカズ君も納得しないと思うから話すわ。小夜子の家はお父さんが入院する前からサラ金からお金を借りてたの、お父さんが入院してからは尚の事、もう返せる金額では無かったらしいの、そして、引っ越し。
ううん、夜逃げだったの。今でも生活はとても厳しいそうよ。だから、そんな姿をカズ君には見られたくないのよ。小夜子の気持ち、分かってあげてほしいの」
言葉が出なかった。まさか、そんな事になってるなんて想像すらしなかった。ボクの地獄はどれだけ深いのだろうか。
「小夜子はどんな事にも絶対に負けたりしない。カズ君が会いたがっている事は伝えてあるから、小夜子から会いに来るまで待っててあげて、小夜子は必ずカズ君に会いに行くから」
ボクはどうすればいいのか、何かしてあげられる事はないんだろうか。幸いにもボクの家は裕福だ。
母さんに事情を説明すればお金を用立ててくれるだろう。でも、あの子が素直に受け取ってくれるだろうか。母さんに相談してみよう。
家に帰り母さんを呼んだ。
「母さん、話しが有ります」
「加寿磨さん、大変な事になったわ」
「どうしたんですか?」たとえ何を言われようと、これ以上落ちることはないだろう。
「会社が倒産してしまったのよ」
ボクの地獄には底が無いのか。
つづく
5/28/2024, 9:16:01 AM