惰眠

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日常

 君と迎える朝が好きだった。
 君と過ごした夜のあと。穏やかで、ささやかで、静かな朝。二人きりの、二人だけの、朝がくる。
 パンを焼いて、コーヒーを作って、カーテンを開ければお日様の光が眩しくて。微笑み合いながら、美味しいねって言いながら、朝食を共にする。

 君の寝癖を見るのが好きだった。いつもぴょこんとはねているそれが可愛くて、とるのが勿体なかったんだ。
 君が出かけるとき、そっと頬に自らの唇を寄せて、反応を見るのが好きだった。いつもしていることなのに、君は決まって赤面するんだ。

 あれほどブルーに感じていた朝が、いつの間にかあたたかい色に変わる。君がいるだけで。

 君という存在は、きっと私の原動力だ。君がいるからこそ、今の私がある。君が生きているから、私も生きていられる。
君がいなくなってしまったら、私はどう生きればいいんだろう?
そう、ずっと思っていた。考えていた。
 君から、離れられなかった。

 ――だけど、その幸福も不安も、結局は最初のうちだけ。

 君を日常の一欠片だと思っていたのが、駄目だった。
 大切なものが日常として浸透していくのが、今はすごく怖い。
 あれほど大切にしたいと思っていたものでも、当たり前の存在になると、ないがしろにするのが私だから。
 
 君という存在がなくなった今、空っぽの私に価値などない。日常の一欠片がなくなって、すべてが一気に崩れ落ちた。パリン、と音をたてて、その破片が、私に傷をつけていく。
 どうしたら、君はまた振り向いてくれる? どうしたら、日常を大切にできる?
今は、ずっと思っている。考えている。
 まだ君から、離れられない。

6/22/2023, 4:18:38 PM