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「裏返し」
妻は花屋を営んでいました。
来る客は顔見知りの常連か、
花好きのお客か、お墓参りする人が来ていた。
だいたい決まっていた。
その日、とある男性が入店した。
その人は暗い顔をしていた。
花に目がいっているように見えるが
花を見ていなかったと思う。
ボーッとしているような、空気を見つめているような。
結局何も買わずに店を出ていった。
言葉にするのは難しいが
他の客とはどこか違うので不思議に思ったそうだ。
それから1週間がたったある日。
その男性はやって来てこう言った。
「ミヤコグサはありませんか」と、
どうやら実家に顔を出すことになったから
花でも買おうかなと思ったそうだ。
妻も花を探していると知ると楽しそうに話していた。
「ミヤコグサには歓喜という花言葉があるんですよ。知ってましたか?」
本当、花のこととなると目をきらきらさせていた。
そして、男性はミヤコグサを買って帰って行った。
それから更に1週間後、
とあるニュースが私と妻の動きを止めた。
「昨日、午後8時50分ごろ、〇〇町に一人暮らしをしている70歳の女性が殺害されました。遺体の傍にはミヤコグサか置かれていたそうです。犯人は〇〇。被害者の息子とのことです。」
その犯人はミヤコグサを買いに来た男性だった。
「犯人は容疑を認めていて、動機については(あいつが妹を殺したからだ。)と話しており、そちらについては現在調査中だとのことです。それでは次のニュースです。」
私と妻は何も考えられなくなってしまった。
私は妻に尋ねた。
「なぜあの人はミヤコグサを買っていったのだろうか。事件と何か関係があるのだろうか。」
妻は悲しそうに答えた。
「ミヤコグサには歓喜以外にも花言葉がある。今回の事件と結びつけるなら(復讐)が一番合うと思う。 」
私は必死に言葉を探したが
「花に罪は無いし、君も思う考える必要は無いよ。」
としか言えなかった。
「花は美しいから人の心を癒すことが出来る。花言葉だって、愛してるや大好き、ありがとうみたいにプラスなものが多い。と言うよりプラスの方を意識して欲しい。呪いや復讐、恨みなどのマイナスは花言葉はできるだけ意識しないで欲しい。花はそんなつもりないんだから。」
警察の調査の結果男性が話した内容は正しく、男性の妹が母親によって殺害されていた。その結果も踏まえ男性には情状酌量の余地があるとして刑は少し軽くなったそうだ。

8/22/2024, 2:29:21 PM