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週半ば。
帰宅後、寝る前までのルーティンを終わらせる『1件のLINE』は《こんばんは》、と告げる黒猫のスタンプ。
まさかの相手過ぎて、返信に迷うが送られてきたのはただそれだけ。
どういうつもりなのか分からずに、とりあえず同じように《こんばんは》とデフォルトのスタンプで返してみる。
既読はすぐについて、そしてまたもや、間。
スマホを投げ出し、途中だったストレッチに戻る。
と、またぽこん、と通知音。

《おきてる?》

最初のスタンプからずいぶんと時間を空けてきた割には簡潔で。意味が分からない。

《きょう》
《すまほデビュー》
《した》

こんな簡単な一文の間に寝る準備まで終わってしまって。
やっと繋がった文章で内容を知ることが出来たのだが、最初のスタンプから、かれこれ30分。いつまで続くのだろう。

《もしもし》
《うぉっあ?!》

しびれを切らして通話に切り替えると、あまりの大きさに耳を遠ざけてしまうほど普段聞くことのない慌てふためく声がした。

《……うるさいです》
《うわ、ごめん!今日変えたばっかで、まだ慣れてなくてさ》
初めてスタンプ使ったと照れた声にこちらまで上ずりそうになるのを押さえて、ソウデスカ、と返して。
続かない会話に、もっと上手い返しがあったのではなかろうかと思案して、いや別に話を広げなくてもと思い直すほどまた長い沈黙。
普段でもメールでもあんなに饒舌に話すのに、どうして今こんなにも静かなのだろう。
つい、憎まれ口を叩きそうになって、通話を切ろうと持ち直せば黒い影が画面いっぱいに広がっている。
よくよく耳をすませば、あーだのうーだのと聞こえてきて。
ビデオ通話に切り替わっているのすら気付かずに言葉を探しているのだと知って、なんでも器用に熟す彼の不器用な一面に思わず笑ってしまった。
こちらはOFFのままなので、急に笑い出した僕に困惑しているのだろう。
その姿がなんだかかわいらしく見えて、先程のメッセージの合間の沈黙に苛ついてしまったのなんてもうとうに忘れてしまった。

《なんだよ、すぐに慣れてやるからな!》
《……ふ、ふふ、まって、ます》
覚えてろよ、なんて捨て台詞も相まって、僕はとうとう声を上げてしまった。

7/11/2024, 3:39:08 PM