【勿忘草】
病的なまでに忘れっぽい性格で昔から色んな人に嫌味を言われきたが、一つだけ鮮明に覚えている事がある。
その日、草原の一本道で男の人とぶつかった。
すみません、と咄嗟に謝ったが、その男の人は私の顔を見るなり、有り得ない!とでも言いたそうな、驚いた表情を浮かべ、こちらも驚いた。
知らない人であるはずなのに、何故か懐かしさで心臓がむずむずと痒くなった。その痒みから逃れたいのか、はたまた無意識的な別の理由からか、その人に声をかけた。
しかし、その人は私が微塵も思っても見ない一言を放った。
ピストルで撃たれたような衝撃だった。今までの人生で一度も体験したことのない、上手く言葉に変換出来ない摩訶不思議な感覚に包まれる内に?その人は私が歩いてきた道をスタスタと行ってしまった。
残念ながら、失うことに慣れちまったお前には用が無ぇんだわ。
その日以降、彼には一度も会えた事はない。忘れっぽい性格も変わることなく、なんでも忘れる。
けれど、そう言った彼の事だけは今でも忘れようにも忘れられなくて、ずっと苦しい。
【勿忘草】
2/2/2024, 12:34:05 PM