空は夜のように暗く、先が見えない海。
この海の中から探さないといけないのか……。
意を決して海に潜って探すが、全然見つからない。
いったいどこに沈んでしまったのだろう?
「まだ思い出せないの?」
海の外から、彼女の声が聞こえてきた。
「も、もう少し待ってくれ!すぐに思い出すから!」
俺は慌てて彼女に返事をする。
彼女はもう待ってくれそうにない。早く探さなければ。
いったいどこにあるんだよ……彼女と付き合い始めた日の記憶は!
この記憶の海の中にあるはずなのに、見つからない。
海から出て、待ちくたびれている彼女に結果を報告する。
「ごめん。思い出せなかった。いつだったっけ?」
「今日よ!バカ!付き合い始めて今日で一年なのに忘れるなんて、信じられない!」
女って、どうしてこんなに記念日とか気にするんだろう?
忘れてた俺も悪いけど、そこまで怒るかね……。
「俺が悪かったよ。ごめん。埋め合わせはきちんとする。なにかしてほしいことがあれば言ってくれ。なんでもするから」
俺は頭を深く下げ、彼女に謝った。
「分かった。今回は許してあげる。でも、ちゃんと覚えててね?」
「もう絶対に忘れないさ」
今度はすぐ思い出せるよう、記憶に目印をつけておこう。
「なにしてもらおうかなぁ」
彼女はあごに手を当てて、俺になにをしてもらおうか考えている。
「じゃあ、私の大好物をご馳走してくれる?」
「お安いご用さ。えっと……」
彼女の大好物って……なんだっけ?
俺は思い出すべく、再び記憶の海に潜った。
5/13/2025, 11:15:39 PM