「未来が見えたらいいのに。」
そう言った彼女の目には、未来なんてものは映っていなさそうだった。その代わり、彼女の瞳の中にはわたしがいた。
真っ暗な瞳の中心に、真っ暗な目をしたわたしがいる。
「どうして、そういうこと言うの。」
言葉が少々乱暴になってしまったけれど、そんなことは気にしていないのか、彼女は笑った。
「もしいい未来が見えたらさ、死ぬの辞めるのになあって思ったから。」
彼女の言葉が、わたし達は間違ったことをしていると笑ったような気がして、血が沸騰してしまったように身体の中が熱かった。わたしは今、どうしようもなく生きている。
「わたしはいい未来が見えても、今死ぬ。未来なんていつ変わるか分からないものに希望を持つことなんてできないもの。」
そう、啖呵を切ってしまえばよかった。彼女がケラケラと笑っているところを見ると、どうしても言えなかった。
わたしは彼女の手から自分の手を離した。彼女の笑い声が止まる。骨が直接皮に包まれているのではないかと思うほど細い指。手のひらに残っているのは、そんな指がかすかに持つ温もりだった。
ああ、きっとわたしが無理に付き合わせてしまっているんだろうなあ。
ふいにそんなことを思うと、賛同するように風が吹いた。視界の中で髪の毛が揺れる。
「じゃあ、生きたらいいじゃない。がんばって。」
一歩を踏み出した。わたしには未来なんて必要なかった。
6/17/2023, 1:07:16 PM