高校卒業のすぐ直前。クラスで描いたカウントダウンカレンダーはもう片手で数えられる。そんな時、俺と彼はかつての部室を2人で訪れていた。
俺が所属していた、至って普通の声楽部。一クラス20人いるかどうか、それが三学年分6クラスだけの小さな学校だ。部活もそんなに多くなく、声楽部とは言うものの、吹奏楽部と合同だった。たまに大会なんかに出られた時には、付け焼き刃としてお互いの人員を充てがったりする。
吹奏楽部からの補充員の中。歌うことはそこまで好きでもなさそうな彼らの中で、一人だけ俺の目に真っすぐ飛び込んできた者がいた。周りと同じように気怠げで、けれど誰より伸びやかで甘い低音が耳に心地良い。合唱の中、たくさんの声が重なって響いているのに、大きくもない彼の声だけは確実に聞き取れた。
それから、どうやって仲良くなったかは覚えていない。俺から声をかけたのだけが確かな事実だ。部活も終わった今では、放課後に2人で駄弁って寄り道する程度の仲にはなった。
「俺さぁ、今だから言うんだけど。」
「うん?」
ある日の夕方。いつものように、俺らが別れる道のそばの土手で彼が言う。速度を出しすぎる自転車を止めるためのフェンスに寄りかかって、紙パックのコーヒー牛乳を啜りながら横目で彼を見やった。
「たまにお前、吹奏楽部にヘルプ来てたじゃん。」
「うん。」
俺はピアノが弾けたので、補充として吹奏楽部に入ることみ多かった。歌うことがもちろん一番好きだが、ピアノを弾くのも悪くない。
「俺、お前の弾くピアノが一番好きだったんだよね。」
そんな告白をされ、俺も勢いで彼の声が好きなことを告げた。お互い、自分の本領ではないところを褒められたのがおかしくて小さく笑い合う。
その翌日。かつての部室、音楽室へやってきた俺達は、どちらともなくグランドピアノの傍に寄る。ピアノは俺、歌うのは彼だ。適当に、なんとなく覚えていた流行りのポップスを弾き始める。彼も知っている曲のようで、イントロの部分から鼻歌を歌っている。別れにしては明るすぎる気もしたが、二度と会えないような悲しい別れにはしたくなかった。
俺達の進路はバラバラ、大人になれば会う機会もほとんど無いだろう。それでも、後生の別れにするつもりは微塵も無い。
誰もいない音楽室、鴉の鳴き声と夕日の茜色が満ちる中 、うろ覚えの伴奏と歌詞が飛びがちな歌声が響いた。
テーマ:LaLaLa GoodBye
10/14/2025, 8:07:46 AM