放課後。エントランス。雨を見上げて立ちすくんでいるあの子がいた。ツンと整った綺麗な横顔。黒髪のポニーテールが溌剌とした彼女によく似合っている。手にしているのは鞄が一つだけ。たぶん、黒猫のキーホルダーがついたやつだ。
僕はちょっと周りを見回した。誰もいない。それから自分の傘を見つめた。傘があった。黒い傘。あの子には無い傘。
どういうわけか蘇ったのは、進展とかないから、という自分の声だった。つい最近のことだ。部活の帰りに友達とだべっていた時の記憶。好きだとか好きじゃないとか、火遊びみたいな会話をしていた。知ったようなふりをして、その実自分のことは何も知らない奴ら。その一人に過ぎなかった僕は、あの時も本心から逃げた。大体、話しかけるキッカケとかないし。キッカケあれば話せんのかよ? 当たり前だろ。ホントかよ。ホントだって。
言い逃れ。後ろ向きな本心を隠すための言い訳。勇気がなからキッカケのせいにしていた。ずっと。これまでは。
雨音がする。弱まる気配はない。あの子が立っている。人の気配もない。鼓動が騒いでいる。喉が渇いている。右手を握りしめる。傘がある。黒い傘が。
あの子が振り返る。
僕は小さく息を吸う。
6/19/2023, 1:22:07 PM