hashiba

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一人暮らしのときはもとより、二人で暮らしても広い家だと思う。よく晴れた静かな休日。開け放った窓という窓から風が通り、カーテンが音も立てずに揺れている。物静かな彼の気配はとっくに流され、まるでどこかへ消えたかのようだった。誰もいないリビングから廊下へ出る。寝室にも、彼の自室にもいない。階段を上って、二階。バルコニーにその姿はあった。何をしているのか尋ねたら、天気が良すぎて空を見ていた、だそう。不意に強く風が吹く。何それ、と笑いながらそれとなく彼の手を引く。家の中に戻るよう促せば、素直に従ってくれて内心安堵した。天に委ねてどこかへ飛び立ってしまいそうな、そんな空気を彼はいつも纏っていた。


(題:風に身をまかせ)

5/15/2024, 9:40:41 AM