とある恋人たちの日常。

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 恋人が風邪をひいてしまった。
 少し前に俺が風邪を引いた。その時は彼女が看病してくれたが、風邪はうつらなかった。
 時間が経ち、また寒暖の差にやられてしまい気がついたら発熱していた。
 
「体温計で熱を計るまでもないよ。今日は家でゆっくりしててね」
 
 俺はスマホを取り出し、彼女の職場に電話をかけながら扉から部屋を出ていった。
 
『はいはーい、どうしたん?』
「あ、すみません。彼女が熱を出しちゃったので、今日は休ませて欲しいんです」
『ああ、了解、了解。知らせてくれて、ありがとね』
「いえ、こっちこそ、ありがとうございます」
『ほななー』
 
 通話が終わって部屋に戻ると、ベッドで俺に向かって手を伸ばし、その瞳から涙を溢れさせた彼女がいた。
 
「社長に連絡したからね……ってなに!? どうしたの!?」
 
 彼女が片手を伸ばしている姿に気がつくと、血の気が引いた。俺は顔色を変えて床を蹴る。
 そして、強く、強く抱き締めた。何かを言うわけではなく、彼女の熱を受け取るように抱き締めた。
 
「やだ、行かないで……そばにいて……」
 
 普段は元気で笑顔が耐えない彼女。それが、こうやって俺にわがままを言うのは本当に珍しい。自分の意見が無いわけじゃなくて、相手を尊重する子だから。
 だからこそ、彼女の言葉に胸を締め付けられた。
 
 彼女の頭を優しく撫でながら、彼女の体重を俺に寄せる。
 
「そばにいるよ」
「うん……」
 
 彼女の身体をゆっくり倒し、隣に寄り添った。
 
「ずっとそばにいるからね」
「うん」
 
 熱があるからか、少し息遣いが荒い。それでもどこか安心したように、瞳を閉じた。
 
 彼女が眠ったら、俺も職場に連絡しよう。
 今日……なんて言ったけれど、俺はずっとそばにいるよ。
 
 ずっとね。
 
 
 
おわり
 
 
 
一六一、行かないで

10/24/2024, 1:36:21 PM