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ルール


ただ自由を求めただけだった。
ルールばかりのこの国で、それに苦しめられ、辛い思いをしてきた者がたくさんいた。
そんな人たちと手を取り合って、新しく国を作り上げた。自由になるための国だった。ルールなんて存在しない、なんでもできる国を作りたかった。
たった一つ、この国に存在するルールは『ルールを作らないこと』だった。自由を手に入れた民は好きなように生きた。起きる時間も寝る時間も、好きなこともやりたいことも、誰にも指図されずにその自由を謳歌した。
そんなあるとき、事件が起きた。とある男が一人の女性を刺したのだ。不幸なことに女性は命を落とした。
そんな事件に民は男を裁くように訴えかけた。しかし、裁くはずのルールすら、この国にはなかった。みんなが絶望する中、男は笑っていた。
そうして、民たちは多数決をとり、男を裁いた。ルールなんてなかったこの国に、ルールが一つできた。
老人がそう話終えると、旅人は未だに不思議そうな顔をしていた。
自由な国、と呼ばれるこの国に興味を持ち、訪れたはずのこの国はルールであふれていた。おそらく訪れたどの国よりもたくさんのルールがあった。
「こんなにもルールがあっても、まだ自由の国と言えるのでしょうか?」
旅人の純粋な問いに老人は微笑んで答えた。
「もちろん、今でもこの国は自由な国だよ。ルールを破らなければ何をしてもいい。私たちが経験したあの自由は狂気そのものだよ」

4/24/2023, 1:57:33 PM