月凪あゆむ

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初恋の日

 それは、まだ幼き頃に。
「大きくなったら、ずーっといっしょにいようね!」
「ん? いまは一緒にはいないの?」
「え!? そ、そんなことはないよ!?」

 なんて、笑いながらした、帰りの幼稚園バスの中での会話。
 楽しかった。嬉しかった。

 なのに、今は。


 学年も、性別も違う彼とは、大きくなるにつれて、一緒にいることも減った。
 加えて彼には、「ファンクラブ」なるものが存在する。
 そのわりに、誰かと付き合ってるだとか、そんな浮いた話は一つも聞いたことはない。
 さすがに、幼い頃のことを覚えているとは思わないけれど。
 しかし。よく眼は合うのはどうしてだろうか。
「……?」
「……!」
 ほら、また。
 ちょっと彼の背中を見ていたら、振り返られた。
 なんとなく、眼を逸らすが時は遅し。一瞬たが、バッチリ眼が合っていた。
 彼はくすりと笑みを浮かべながら、前を向いた。
「…………」

 
 そして、それは起こった。
 放課後。とある教室にて呼び出しをくらった。と言っても教師にではない。
 3対1で、彼のギャラリーと見られる女子達に、囲まれる。
 その目のギラつき具合は、さながら野生の肉食動物のようだ。
 と。なんとなく思っていたら。
「あんた、何様のつもり? 彼のこと、チラチラ見て。キモいんだけど」
「え……? いえ、何様もなにも」
 眼が合うのは、そんなにもいけないことか。
 どうも、この女子達は自分の事が目障りらしい。なんとなく不本意だが。
「……すみません。もう、見ないので」
 俯き、つぶやく。
 ああ、言ってしまった。どうしてこんなに、悲しいのだろう。

 そして、満足げな女子達が教室から去ろうとして。なぜか固まっている。
 目線を上げてみると。
 ドアに、「彼」がいた。

 サァーっと、女子達は顔を青ざめる。
 彼はわらっていた。怖い笑い方だ。

「それ、止めてくんない? 俺言ったよね、ファンクラブなんて要らないって」
「や。それは……」
「それに」

「俺の恋路を、邪魔すんな」

 真顔の彼は恐い。なんてぼんやりと考えている間に、女子が逃げていった。
「……真顔は怖い。とか思ってんだろ」
「え……!」
 はぁぁ、と大きなため息をつかれながら、一歩、また一歩とこちらへ近づいてくる。
 つい、こちらも一歩と下り、結局壁に当たる。もう、下がれない。

「ねえ、覚えてる? 俺の告白」
「こく、はく……?」
 いつにない、真剣な眼で、告げられた。

「ずーっと、一緒」


 それは、幼い頃の言葉よりも、ずっとずーっと甘い響きで。
 ああ、やっぱりズルいな。
 
 はたして私の初恋は、彼に奪われたのか、否か。
 ──なんて。言うまでもないことだろう。

5/8/2023, 12:41:27 AM