村人ABCが世界を救うまで

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力をうしない震える肩を、何度か躊躇して支える。ぱしんと容赦なく拒絶の手が入った。 
「やめて」
「立てないくせに」
生まれたての雛鳥のような立ち姿だった。病的に痩せて、あちこちに傷が目立つ。真っ白な肌だったのに。
改築に改築を重ねたウッドデッキ付きのコテージは、2人で住まうにはあまりに広い。
大きく開いた窓から早春の風が入ってくる。
どうしたものかこのじゃじゃ馬。と手ぐすね引いていると、娘は言った。
「出ていくわ。世話になった」
着の身着のままで、彼女は帰ってこなかった。
彼女の肩にある傷跡をみる度にどうしょうもなくすき間風が空く。勇気がないのは俺の方だ。

世界は小さいな。
薄暗がりの埃っぽい酒場で彼女によく似た娘が営業前に練習だといって1人で歌っている。
場末のスナックで歌わせていい人ではない。
染み入るような抑揚。
彼女の吸う息さえも甘くて気だるくて、異国の歌詞で分からなかったけど、声は強く伸びやかだ。
自分だけが聞いてていいのか。
遠い望郷に駆られるような、見たこともない田園風景を思い起こされるような声。 
すぅっと歌声がしぼんだ。なんだと思っていると、彼女は言った。
「誰か来たね」
外から来る音を拾ったようだ。歌いながらお見事だ。
「聞かせてあげたらいいのに」
「いや。あまりそこらの誰かに聞かせたくないんだ」

そうなん…だ。


My Heart

3/27/2026, 11:54:43 PM