いつかあなたは私の前からいなくなってしまう。それは遠い先の話ではなく、ある日突然。それが怖いのに、私はあなたから離れることはできない。いつの間にか虜になって、頭からあなたのことが離れなくなった。
私の口癖。
「ねぇ、いなくならないよね?」
口に出す度に彼はケタケタと笑って同じように答える。
「いなくならないよ。なに心配してるの?」
よく拠点を変える。シェアオフィスも池袋だったり、目黒だったり。たまにはクルーザーを拠点にすることだってある。その度に私に来るかどうか聞いてくれるのは嬉しい。あなたも、私のことが好きなのかもしれない、一緒にいたいのかもしれないと自惚れる。でも、不安は消えない。目の前からあなたが消える日が刻一刻と近づいているかのように、私の心はバクバクと音を立てながら夜も眠れなくなる。
「寝れないの?」
「…起きたらあなたがいなくなっている気がして」
「だから、ならないって。名前を置いていくことなんかしないよ」
「本当?」
「本当に。だから、ゆっくりおやすみ」
あなたの言葉は魔法のようだった。一緒のベッドで寝て、あなたの温もりを感じながら目を瞑るのは幸せ。
でも、やっぱり突然だったね。目を覚ませば置き手紙も何もなく、あなたがいたという形跡もなかった。慌ててスマートフォンからあなたの名前を探してみても、電話帳もSNSも何もかもあなたの痕跡すら残っていなかった。
これを恐れていたのに、いつかこうなることは分かっていたのに。ベッドでただひたすら泣くことしかできない。あなたがいなければ、私は夜眠ることもできなくなっているのに。
あなたがいない生活は続く。でも心の片隅にはいつもあなたがいて、変わらずケタケタと笑っている。不意に戻ってくるかもしれない。だってあなたはいつだって自由奔放だから。
6/3/2022, 8:05:31 AM