研史郎

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初恋の日は初舞台の日でもあった。
客のまばらな3列目中央の席で、
人一倍笑い声を上げていた彼女。
彼女の片襟が大きく捲れ上がっているのを見て、
つい、さりげに自分の襟を正した。
彼女は構う事なく笑っていた。
初舞台なんて悉くスベるべきだ、
なんてスカしていた相方の口元も緩んでいた。
間違えた成功体験だとしても、
最初の客に彼女がいてくれて良かった。
白杖を携えている事に気付いた時は驚いたが、
自信はまったく傷付かなかった。
今日もまた、会場を埋め尽くす笑い声の中から、
彼女の声を探している。

5/7/2026, 11:53:58 AM