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すぐ目の前に、迫りきている車。

自分は、信号無視はしていない…筈だ。

いや、もしかして気付いていなかっただけ?

しかし、その判断をするよりも先に、鈍い音が、行き交う雑踏の中に響いた。


ザワザワと、野次馬が現場を撮影する姿もあれば、救急車や警察に連絡しろと叫びながら、既に無意味な止血を懸命にするお人好しまで、様々な人間がそこに凝縮されているな…など他人事のように眺めている。

ふと、そこまで思ったところで気付く。

なんで、自分が自分を見下ろしてるのか、と。

これはいわゆる、幽体離脱というものだろうか?
それとも、死にきれないで未練が残って霊になっているのか…?

「やぁ」

「⁉」

急に、声をかけられ、驚く。

「そんなに驚かないでよ。ま、この神々しすぎる姿を見たら、無理もないけどね」

だいぶ、ナルシストみたいだ。

まぁ、確かに人間離れしてるというか…

「あー…その頭の上にあるのは…」

「この輪?神の証だけど?」

「あぁ…じゃぁ、やっぱりお迎え…」

「そんなわけないでしょ。お迎えは下級天使の役目で、神の役目じゃないし。ま、君は運がいいよ」

「死んだ人間に、"運がいい"はないだろ…」

「なに言ってんの。神様が目の前に現れただけでも、運がいいでしょ。人間の前に現れるなんて、数千年に一度だったりするんだよ?」

「はいはい…で、その貴重な数千年に一度の相手が俺なのは何で?」

「それは、ちょうど死人が出る情報があったから来たんだよ。やっぱり流石に生きてる人間を連れていくわけにはいかないしさ」

「サラッと怖ぇこと言うな…!連れてくってなんだよ…神様が人攫いか?」

「異世界転生ってやつ?死んでれば、魂だけで済むからさ。生きてると、身体ごと連れていかないとだから。色々面倒なんだよ?記憶操作とか手間だし」

「待て待て待て…!色々訊きたいがまず待て…!」

「なに?あ、とりあえず、転生先に送り出してからでもいい?」

「俺がいつ、転生させてもいいと言った⁉」

「え?でもそしないと君、このまま死んじゃうよ?」

「死か転生の二択なのかよ⁉」

「いや、転生一択でしょ?君、こんな死に方して終わってもいいの?」

「うっ…な、なら転生じゃなくても…普通にこの世界の俺を生き返らせ…」


「それでもいいけど…せっかくなら違う世界の方がよくない?君、この世界に執着する理由もないじゃん」

「なに言って…」

「僕が人間の前に現れる条件って、死んでれば誰にでもってわけじゃないよ。生きていた世界になにも執着はない人間を選んでるわけ。そうじゃなきゃ、誰彼構わず僕も死人が出る度に会いに行かないといけないでしょ。流石にそれは数が多すぎるからね。人の寿命って短いし。選別してるんだよ。これでも一応ね」


そして、この神様とやらは俺の話も聞かず、続ける。


「て、ことで。新たな世界で頑張ってね。バイバイ」


そう言って、消えた次の瞬間には、目の前に見慣れない景色が広がっていた。


「マジか…」

どうやら、本当に異世界転生ってやつをさせられたようだ。


7/27/2024, 7:06:43 PM