谷折ジュゴン

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創作「神様が舞い降りてきて、こう言った。」

家を出ると、絵に描かれる神様みたいな姿のおじいさんがいた。地面から1mほどの高さに浮かぶ雲にあぐらをかいて、額に汗を光らせながら首をひねっていた。よく見ると手には短冊と携帯用の墨と筆を持っている。

「神様が舞い降りて来てこう言った あとの七七何と詠もうか」

朗々とした声でおじいさんはそう言い、不満そうに新たな短冊をどこからか取り出す。わたしは戸惑いつつ、移動してもらうために声をかけた。

「あの……何をされているんですか?」

「ん?短歌を作っているのだ」

「ここ、わたしの家の前なので、移動していただけないでしょうか。短歌を詠まれるのなら、向こうの公園が涼しくておすすめですよ」

おじいさんは驚いたように目を開き、わたしの足の先から頭の上までじっくりと見た。

「おお、そうか。あんた、わしが見えるのか。いやはや、創作意欲が湧くとどこでも詠んでしまうのが、わしの悪い癖でな。うむ、移動しよう。ここはちと暑い」

そう言い、がははと笑う。案外気の良いおじいさん、もとい神様だった。神様はこっそり地上を視察して短歌として記録しているらしい。

「では、わしは一度、天に帰るとしよう。あんたも元気でな」

そして、神様はふわふわと浮上して行った。

ふと、足元を見ると短冊が一枚残されていた。手に取ると驚くほど軽い。そこには見たこともない言語が記されていた。読むことはできなかったが、心まで軽くなるような言葉であると伝わって来る。しばらくすると、短冊は手の中から消えていった。

こんなに暑い日には、不思議なこともあるものだ。

(終)

7/28/2024, 2:39:10 AM