「ちょっと散歩しようよ。」
あなたを誘う、私の声はすこし震えている。
いつものように、お気に入りのリュックサックを手に取った。中には、お財布と、鍵と、ブックカバーをつけた文庫本。そして、あなたのリュックサックにも、たぶんお財布と、鍵と、それから文庫本。
「どこまで行く?」
そう訪ねるあなたを尻目に、マフラーを首に巻く。
「とりあえずそのへん。」
ちょっと強引すぎたかな、なんて今更遅いか。
開き直ることにして、あなたの手を引く。
コートの袖からのぞいたセーターに指先が触れた。
11/24/2021, 11:23:40 AM