ハクメイ

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一つの空島に、一人の少年が立ち尽くしていた。
体躯こそ小さいが、髪や体の節々から炎が溢れ、風に吹かれている。
まるで炎が人に化けたような、そんな姿だ。

「何がどうなってるんだ…?」
なんとか絞り出したその声には、誰も返してくれない。
なんの変哲もない、少年の第二の故郷である浮島。
川が流れて、森があって、複数の住宅が集まった場所があった、そんな風景は

全てが白い糸で覆い尽くされていた

子供がいたずらでするような、リモコンを毛糸でぐるぐる巻きにするような容量で、目に映る全ての物が、白く染まっている。
触ってみると、その糸はまるで鋼鉄のように硬い。
自分の炎で焼き尽くせないことを痛感した少年は、舌打ちをして、顔を上げた。

糸で包まれたのは、自分が立っているこの島だけでは無い。
ここら一帯、全ての島が同じようになっていた。

「焰!」
後ろを振り返ると、そこには体躯の大きい青年が居た。
「数年ぶりですね。元気にしていましたか?」
「当たり前だ。お前こそ、上手く商売してるらしいじゃないか」

青年は小恥ずかしそうに微笑む。
岩のような硬い皮膚に、少年がすっぽり収まりそうなほどのリュックを背負っている。

焰(ほむら)と呼ばれた少年は、商人に状況を確認し始めた。
「恐らく、もう察しているでしょうけど…僕たちの師匠は、いや、奇術師は」
丁寧な言葉で、言葉を詰まらせながら、結論を話す。

「奇術師が、発狂しました」

焰の胸が高鳴る。
こんな言葉は、嬉しい時に使いたいのに。
楽器のように、鮮明に、心臓の鼓動がリズミカルに聞こえてくる。
黙りこくる焰に、商人は冷静に説明する。
この次元に住む者達にとっては、当たり前で、思い出したく無い、そんなことを。

「発狂は、僕達"想者"(そうしゃ)にとって、寿命のようなもの。覆すことは出来ず、覆してもいけない。
発狂すると、自分の想いが抑えきれず暴走し、想いに呑み込まれ、自我を失う。だから…」

「今生きているそいつは、俺らの師匠とは違う…そう言いたいんだろ?」
商人は、こくりと頷いた。

焰は顔をしかめ、深呼吸する。
「行くぞ、奇術師を頃しに行く」
商人はそれ以上声をかけず、ただ焰の後ろを着いて行った。


お題『胸が高鳴る』

3/20/2026, 2:52:36 AM