じきに衣替えの季節だ。
クローゼットの中はそれほど詰まっていない。
おれはいまだにきみがくれた黒いジャケットを捨てられずにいる。
ところどころほつれて毛玉も浮いてきたジャケットは、
それでもさすが高級品だ。
まだ暖かく着られる。
きっときみはこのジャケットのことなんか忘れているだろうけど。
たまにきみを遠くから見かけると、嫌でもおれとの隔たりを感じる。
本当にきみは全部、あの日々を全部忘れてしまったのだろうか。
あの日、きみが好きだと言ったおれを、きみは何も言わず抱きしめた。
おれは今年の冬も、もう残ってなんかいないきみの香りを探して黒い襟に鼻先をうずめるんだろう。
10/22/2024, 4:51:03 PM