「怖がり」
「先輩!」
「なんだ?」
「先輩ってどこの大学志望ですか?」
「なんだ急に?」
「だって、一緒の大学行きたいじゃないですか」
「まぁそうだけど…」
「えっ先輩素直ですね!そんなに私と一緒にいたいんですか?」
「悪いかよ…」
「いや、悪くないですけど…素直すぎて怖いというか…
恥ずかしいというか…素直な先輩も可愛いというか…」
「なんだよそれ、てか一緒の大学は行きたいが、お前のやりたい事とかで大学決めたほうがいいぞ」
「それなら大丈夫です!私のやりたい事をするために一緒の大学行くんで!」
「俺の志望大学知らないのに、そんでお前のやりたい事って何なんだ?」
「それ聞いちゃいます?」
「自分で振っといて、言いたいんだろ?なんだよ?」
「先輩のお嫁さんです!」
「なっお前なぁ…」
「酷いです先輩!私のことは遊びなんですか?」
「いやそうじゃなくてだな、お前と以外考えたこともないしそうなりたいと思ってるけど…それ今言うか?」
「…」
「何照れてんだよ!」
「照れてないですよ!」
「あーそうかよ」
「星が溢れる」
自分の気持ち
それは分かっているようで分からない。
些細なことで揺れ動くし、ましてや恋心となれば尚更だ。
彼女の気持ち、自分の気持ちを素直に受け入れた途端どう彼女と接していいか分からなくなっていた。
お互い同じことを考えていたのか同時に言葉が出た。
公園のベンチに座り彼女のために買っていたジュースを渡した。
彼女の気持ちを…
どうしてこんな俺を?確かめたかった…もう一度…
卑怯だな俺は…
そんな俺には勿体ないくらい彼女は真っ直ぐで素直に自分の気持ちを伝えて来た。
俺はそんな彼女を見ていることができなかった。自分が情けなくて恥ずかしくて…でも同時に嬉しかった…
「ごめん…」
「えっ…そう…ですか…」
彼女から涙が溢れ出す。
「すいません!私…帰りますね…」
立ち上がろうとした彼女の手を俺は慌てて引き止めた。
「あの先輩?離してください…」
「ごめん、いやそういうごめんじゃなくて…」
抑えていた感情が溢れ出した。涙が止まらなかった。
「お前のこと今まで遠ざけてたこと、お前の気持ち薄々知っていたのに…さっきも今も…また…ごめんな…」
「こんな俺でほんとにいいのか?…」
「先輩がいいんです!先輩じゃないと駄目なんです!」
彼女もまた、涙が溢れ出している。
「こんな俺を好きになってくれてありがとな…」
「俺もお前のこと大好きだ…」
「先輩…もう…遅いですよ…」
俺は立ち上がり彼女をおもいっきり抱きしめた。
「俺…相当めんどくさいぞ」
「知ってます」
「女の気持ち全然分からんし」
「それも知ってます」
「コミュ力もゼロだし」
「私が補うから大丈夫です」
「あと…」
「全部全部!先輩の全部が好きだから大丈夫です!」
「変わってるはお前…」
「先輩に言われたくないです…」
陽ももすっかり落ち少し肌寒い公園で
お互い温もりを確かめ合うよう強く抱きしめあった。
頭上には幾千の星が輝いていた…
その一つ一つが幾千の想いであるかのように…
「安らかな瞳」
「俺も…お前が好きだよ…」
無意識に出た言葉だった。
慌てて寝たふりをする…
あいつの泣いている声が微かに聞こえてくる…
誰ももう近づけないと決めたのに…
あいつは…そんなことお構いなしに近づいて来る。
でもあいつはあいつで、不安でいっぱいで怖かったのだと今なら分かる。
近づくことで傷付く自分。
遠ざけることで傷付く相手。
結局俺がやっていたことは自分勝手で、自分も相手も誰も何も得るもののないことだったんだ…
抱きついてきたあいつを俺は、素直に受け入れることができた。
俺はこいつのこと…
どれくらい抱き合っていただろう
暫くして落ち着いた彼女の瞳は、とても優しく安らかなものだった。
3/16/2023, 5:09:25 PM