昔っから言われるこの言葉。
「なんか変。」
私のどこが変なのだろう。大人も口を揃えてこう言う。
「なんか変。」
「普通じゃない。変な人。」
たったそれだけ。それ以外は何にも言わない。どこが変なのか聞くと、「夏月ちゃんの個性があるから、私達に解決法は言えないよ。」という。
何が言えないだ。変だ変だと言い続けてからかいたいだけではないのだろうか。そう思えてくるぐらい言われてきた。
見た目は、茶髪のポニーテールで、今年から履いていいことになったズボンを履いている。それ以外はみんなと同じ制服だ。着崩したりはしていない。ちなみに私は女子である。
今日から、学年が上がって高三になる。また、変って言われそうだな。
教室に入ったら、チャラそうな男子達が「確かに変だ!」と言って笑っていた。周りを見ると、猿みたいにいつもキーキー騒ぐウザい女子達がピースしていた。私に向かって。
流石にイラッと来たので、言い返した。
「変だと言うなら、お前らも変だな。普通は人それぞれだから違ってて当たり前だろ。」
これに腹を立てたピースしてきた女子達とチャラそうな男子達がこっちに来た。単純な奴ら。こんなことに腹立つなんて。
その女子達のリーダー格みたいな人が胸ぐらを掴もうとしたけど、サッと避けた。今度は男子達が捕まえようとしたけど、それも軽々とかわす。
実は、自慢じゃないけど力と運動神経が周りよりズバ抜けている。だから、昔から喧嘩は強かった。
「この変人!なんで動くのよ!」
「動かないと殴られるし。そっちの人数が多いから余裕だろ。」
この言葉で、更に怒り出した女子達がヒステリーを起こす。同じ女だけど、これはないわ。男子達も暴言をたくさん吐き出した。
「女なのによぉ、喧嘩してるとか意味わかんねー」
「それな!口調も男っぽいし、それで女子とかありえねーわ」
「自分は女子ですぅ〜って言いたい系?もしかしてオカマ?」
「それは傑作だわ!お前天才か?」
男子達がケラケラ笑っている。今まで変だ言われてきた理由が分かった。女なのに、男みたいだから。だが、それはどうでもいい。頭に血が登って、今にも怒りが爆発しそうだ。周りの奴らのクスクスと笑っている声が聞こえてくる。
……今すぐ、全員殴ってやりたい。チャラい男子達に殴ろうとして拳を振りかざした。
「変じゃないよ。」
突然、聞いたことのない凛とした男子の声が後ろから聞こえてきた。びっくりして殴る寸前で拳を止めた。後ろを振りかえると、芸能人にいそうな顔立ちのいい男子が立っていた。嫌な笑い声に包まれていた教室に静寂が訪れた。そして、その静寂を男子達が破った。
「はぁ?こんな男っぽいやつのどこが変じゃないんだ?」
「そ、それな!水原君もこんな変なやつのどこが変じゃないの!?」
「みんながよく言う、秋村さんの個性だし、今どき男らしい女らしいなんて関係ないでしょ?それに、ズボンは今年から女子も履いていいことになったの知らない?あと、今のは完全にいじめだから、ちゃんと心から秋村さんに謝れよ。」
水原というやつが少し睨むと、みんな謝り出した。謝られても、やったことは変わらないし許すつもりもない。チャラい女子達と男子達は渋々誤っていたけど、どうでもいい。
ふと、時計を見るともうすぐチャイムが鳴る時間になっていたので、席についた。しばらくしたら、チャイムがなったので、チャラい女子達と男子達は慌てて座っていた。
昼休み、校庭の隅にある木陰で弁当を食べ終わってゆっくりしていると、水原が来た。
「いたいた。秋村さん昼休みになるとすぐいなくなって見つけるのに時間がかかったよ。」
「何のよう?」
「秋村さんと話がしたくて。隣座っていい?」
「構わない。」
水原が隣に座ると、購買で買ったらしきメロンパンを食べ始めた。少ししてから水原は質問しだした。
「秋村さんって……名前なんていうの?」
「夏月。秋村夏月。」
「へえ。名前は秋と夏が入っているんだ。」
「まぁ、その影響で夏と秋は好きだけど。」
なんだか、答えっぱなしなのは嫌だ。腹が立つ。私も質問仕返した。
「じゃあ、お前の名前は?」
「水原瑛人。」
瑛人って言うのか、こいつ。ふと、気になったことを質問した。
「何で私のことかばったんだ?そしたら、お前にも被害が及ぶかもしれないだろ?」
瑛人は何言ってるの、と言いたげな顔をしたあと、こう話出した。
「男、女……関係ないでしょ?自分の好きなこと。あと、いじめられているのに見捨てられなかったし。」
「いじめられているつもりはないけど。」
「でも、あそこで止めておかなかったら夏月さん殴ってたでしょ。」
図星をつかれてぐうの音も出ない。
「夏月でいい。さん付けだと方苦しいし……。」
「じゃあ、これから夏月って呼ぶね。あと、俺のことも瑛人って呼んで。」
「お……え、瑛人」
満足そうに頷くと、満面の笑みで、
「それでいいよ。その方がいい。これからよろしくね!」
と瑛人が言った。
……こんなこと初めてだ。今までは、変だ変だ言われてきたのに。とても、嬉しかった。顔が熱い。風邪でも引いたのだろうか。
今年はいい一年間になりそう。
春の日差しが私達を見守るように包みこんでいた。
4/4/2024, 3:07:42 PM