仕事から帰宅して、夕飯の仕度をしていると、ひょこひょこと同居人が近寄ってきた。
「え?夕飯作ってくれるの?買い物はお願いしちゃったけど、わたし作るよ」
「仕事は大丈夫なの?」
在宅ワークだった同居人は、仕事が立て込んで外出ができず、夕飯の買い出しを私に任せていた。
「ちょうど終わったトコ。ねえ、なに作るの?あ、カレーだ!」
エコバッグから出した中にカレールウが含まれていた。
「これは明日の分。明日も私が当番だから、今日のうちに煮込みはじめようと思ってね。今日は野菜炒めと鶏肉のソテー。野菜は明日と被るけど我慢して」
「ぜんぜんオッケー、ありがとう」
本当に屈託がない。自分が作るよって言ったのも忘れていそうだ。
「あ、デザートもあるから、あとでね」
「わー、楽しみ!」
そう言ってニコニコしながら洗濯物を畳み始めた。
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食事を終えて、私が買ってきた白桃ゼリーを二人で食べる。ソファーに横に並んでゆったりする時間だ。
「今日さ、満員電車から押し出されるとき、あー、これゼリーみたいだなーって思って、ゼリー買いたくなったんだ」
「あはは、なにそれ。めっちゃわかる」
こんな変なこと言っても、こいつはわかっちゃうんだよな。
「これ、ちょうどこのひと口サイズでしょ?これを指でぎゅーって押し出すときの、押し出されたゼリー!これが人間!気持ち悪〜い」
また豪快にあははと笑い転げる。この瞬間以外のどこに人生の真実があろうか。
「わたしはね、そう!今日通り雨あったじゃん!あのときLINEありがとね。そのときコンビニにいたんだけど、ダッシュでウチ帰って、急いで洗濯物取り込むじゃん、そしたらカップ麺がもうふやっふやでー…」
こんな失敗も、二人で話せば笑いの中に溶けていく。
「午後になったら雨も止んだじゃん。そしたら部屋がシーンとなって、静かすぎるって思ったの。で、あ、ごめん、レコードプレイヤー借りちゃった!」
「いいよ、使い方わかった?なに聴いたの?」
「これ!コルトレーン!もうめっちゃ良くて、すっごいデザインの仕事はかどったの!そしたら…」
コルトレーンで仕事が捗るとは、本当に波長が合う。ん?捗った?それでも終わらないほど仕事が詰まってたのか?
「そしたら、上司に指示されたのとぜんぜん違うデザインができちゃって!もうJAZZじゃんってなって」
私も一緒になって笑い転げた。それで作り直して時間がなくなったのか。
「ねえ、こういう日って奇跡みたいな一日だと思わない?」
いきなり妙にロマンチックなことを言う。でも、
「…そうかもしれないな。こんな奇跡みたいな日が、また明日も訪れるように、そう願って眠れたら幸せだな」
「ちょっとクサくない?」
「お前が言い出したんだろ」
あはははは、と体をそり返らせて大笑いする。
「上司で言ったら、今日、取引先が上司連れてきてさ…」
こんな奇跡みたいな一日を、もう一度。
10/3/2024, 1:36:56 AM