キクラゲ

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-----------------空に向かって

ある小さな村に、空を見上げることが大好きな少女がいた。

彼女は毎日、青空の下で遊び、雲を指差しては、
「こんなに高く飛べたら、どんなに素晴らしいだろう」と語っていた。

ある日、少女は村に伝わる言い伝えを耳にする。
「空に向かって願いを込めて飛ぶ風船は、想いを届けてくれる」
彼女はその言葉に心を躍らせ、晴れた日を待ちわびていた。しかし、幸せな時間は長くは続かなかった。

季節が移り変わるにつれ、彼女の母が病に倒れた。彼女は必死に支え合ったものの、病は深刻で、母の容態は日に日に悪化していっくばかりだった。彼女の心には不安と悲しみが広がり、空を見上げることも少なくなっていった。

母が危篤に陥った時、彼女はふと思い出した。空に向かって風船を飛ばそう、母の生を願おうと。彼女は心に強い想いを抱き、白い風船を準備しだした。風船には、治癒の祈りを込めた手紙を結びつけた。

晴れた日、アオイは小川のほとりに立ち、空を見上げた。青い空の広がりはいつもと同じで、彼女の心を少しだけ和ませた。しかし、その時の彼女の目にはたくさんの涙が溢れていた。彼女は風船を手にし、声を震わせながら願う。

「お空の神様、どうか母を助けてください。」

風船を空に向かって放つ。その小さなの想いは青空に吸い込まれていった。
西の空は暗く、風が冷たく吹き始めていた。


数日後、彼女の母は静かに息を引き取った。
やわらかな日だまりのような優しい笑顔だった。
彼女はその日から、空を拒否するかのように背を向けている。彼女にとって空はもう、希望の象徴ではなくなった。そこに昔のような夢や希望はない。

ただ、愛する人を失ったその悲しみ、傷みで、空の青さはただの虚しさに変わっていた。

母にもう一度会いたい。
少女はそのひとつの想いを胸に、空に向かって歩き出した。

4/2/2025, 11:23:39 AM