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「このまま、空まで飛んでしまえたら」
きぃこきぃことブランコを漕ぎながら、彼女が言った。僕には漕ぐ気力は無くて、ただ座って彼女を乗せた振り子を横目にしているだけだ。
彼女の力は馬鹿にならない。彼女の言う通りに、そのまま夜空の月まで飛んで行きそうな気配がした。
「危ないよ」
「危ないかぁ」
土煙と共に、隣の振り子は急停止する。
「帰ろうか。寒いし」
キンと冷えた空気は、黒いキャンバスに散りばめられた星を明瞭に見せている。だからこの寒さを嫌いになれない。
「帰ろう」
手を繋いで、星でもみながらね。

乗り主を失ったブランコは、またあの星空に近づける時を刻々と待っているようだった。

2/1/2024, 12:47:42 PM