きみにじいっと見つめられると、どんな願いでも叶えてあげたくなってしまう。
〝目は口ほどに物を言う〟とは誰が言ったか。いつも賑やかなきみは、私におねだりをするときだけ、決まって静かにこちらを見つめる。声で何度も訴えかけるより、顔に付いた小さな黒丸ふたつを利用した方が勝算があると知っているのだろう。正解だ。黙り込み、じっとこちらを見つめる姿はとてもいじらしくて、可愛らしくて、罪悪感すら湧いてしまうのだから。
ああ、どうしよう。きみの為を思うと本当は良くないのかもだけど、最近は控えめだしな。少しくらいなら、少しくらいなら我儘に応えてもいいんじゃないか。今ならあいつもここに居ないし、バレなきゃきっと大丈夫。
数秒間の自問自答。決意して、棚にしまった小袋から細長いものを1本取り出す。端の方を少し破れば、君の目に星が宿った。あとはこれをきみの口元に持っていくだけ――
「ただいま。って、姉ちゃん! まーたにゃーこを甘やかしてたな」
私の手元と床に置きっぱなしの猫用おやつの残骸を見て、帰宅早々弟が溜息を付いた。少し冷たい視線。そんな目で見つめられて、私もみゃーこに負けじと口を噤んだ。
【見つめられると】
3/29/2023, 4:32:48 AM