昔話や御伽話では正直者が救われるのに、
どうしてリアルではそれが逆なんだろうか。
嘘つきは他人の事なんて気にせず、自分に正直に生きてる。正直者は他人を優先した結果、自分に嘘をついて生きている。
リアルでは損な立ち廻りを任され、嘘つきの掌で踊り、踊り狂うまで。壊れるまで踊らされる。
自分が壊れる時を知らないまま。
責任をという役割を負わされ、いつか夢みるその日まで不遇だと感じながらも何も言わず踊ります。
その踊りは完璧で優美なものであってもそれを評価されることはないのです。
だって舞台袖では誰も見ていないのだから。
全てが整えられた、舞台で踊るのは嘘つきの方だ。
拙い踊りでも煌びやかな衣装と化粧でどうとでもなった。観客達はそんな踊りなど目もくれず、スマホを片手に自分に酔いしれてる。
舞台など大して見てもいないのだから、適当な評価で
正当な評価でもない。
適当な評価でも多数集まれば過半数で高評価となる。
それを真に受け、社会的評価が上がる嘘つき。
◆◆◆
正直者は自分の方が踊りが上手いことを自覚していました。ですがそれを言うことはできません。
それは嘘つきの方が評価されているからです。
正直者はとても傷つきました。
嘘つきの着た衣装も舞台も化粧も全て正直者が用意したからです。
正直者は言いました。「嘘つき、良かったね。これで皆に認められたね。」
嘘つきは言いました。「やっぱり私の才能があったからよ。」
正直者はもう何も言いません。いいえ、言えなかったのです。絶望と怒りでもう何も言葉など出てこなかったのです。
嘘つきはますます。正直者を見下すようになりました。正直者は自分の性格を曲げられず、怒りや憎しみを抱えながらも抑えこんでいました。
そうして、一つまた一つと完璧な舞台を整えてやりました。
嘘つきはさらに、要求を増やしました。
どんどん、どんどん。
正直者も意地になってその全てに応え続けました。
そしてついに、正直者は壊れてしまいました。
嘘つきは正直者がいないと舞台を整えることはできません。
だって今までやってもらっていたから。
嘘つきは仕方なく自分でやろうとしますが、正直者ほど上手くいきません。
嘘つきは言いました。「正直者のせいだ。私にやり方を教えてくれなかったから。」
そして嘘つきは周りに助けを求めました。
「正直者が勝手に全てを引き受けて、自滅したんだ。」そう周りに伝えたのです。
正直者は療養していました。そして風の噂でその事を知らされました。
「この、大嘘つきめ。」正直者は閉ざしていた言葉を吐き出しました。
離れても正直者を苦しめる嘘つきに酷く憎しみを覚えました。そしてまた立ち上がりました。
嘘つきは似たもの同士のウソつきによって助けられました。「かわいそうな嘘つき、僕が助けてあげよう。ところでいくら出してくれる?」
「助けてくれるなら、いくらでも。」
しばらくして、正直者は当時と見る影もない嘘つきを見かけました。
正直者は当時の怒りを忘れることはできません。
声をかけることもしませんし、関わりたくもありません。地位も名声もありませんが、ようやく自分を取り戻した正直者がそこにいました。
正直者は心中で罪悪感と葛藤しながらも自我が勝ち「ざまあみろ…」そう静か思ったのでした。
めでたし、めでたし。
とは言えない終わり、人との遺恨はそんなに割り切れるものばかりではないのだから。
6/2/2024, 11:53:34 PM