茜屋 葵

Open App

お題『幸せに』

︎ 祝福の鐘が鳴る。空は稀に見る快晴で、雲ひとつありやしない。どこまでも続くスカイブルーの天井には幾多の白鳩が飛び交い、そして戯れ合う。そんな幸福を象徴した景色がキラキラと虹彩を彩り、そのあまりの眩さに僕はうっかり目を細めてしまった。
「結婚おめでとう」
︎ かわいらしい花束を渡せば、眦にシワを寄せて笑う二人。ありがとうと声を揃える様は、まるで生涯を共にした老夫婦のようだった。
「……幸せになってね」
︎ 二十年と数ヶ月。友愛と恋愛を揺蕩った時間。及び腰な二人にもどかしさを覚え、何度も口を滑らせてしまいそうになった青年時代。淡くて、甘くて、どうしようもない失恋を心の奥深くに閉じ込めた少年時代。長い月日は、今日の為にあったのだろう。
︎ やっとくっついたのかという安堵感と、ほんの少しの可能性すら消え去ってしまったのだという未練がましさ。とうの昔に忘れたはずの心がガタガタと騒ぎ立て、相反する気持ちで綯い交ぜになる。
「もちろん」
︎ 胸を張る君の笑顔。荒む心を落ち着かせる唯一のもの。どんな宝石よりも価値のある、僕らの宝物。

3/31/2023, 4:17:42 PM