涙の理由
第一章:泣かない世界
この世界では、誰も泣かない。
感情は整理され、悲しみは薬で抑えられ、涙は「非効率」として排除された。人々は笑顔を貼りつけ、感情を管理された日々を生きていた。
そんな世界で、少女・灯(あかり)は育った。彼女は一度も泣いたことがない。母が亡くなった日も、父が遠くへ去った日も、涙は一滴も流れなかった。
「泣くことは、弱さだ」と教えられてきたから。
でも、心の奥には、言葉にならない何かがずっと渦巻いていた。
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第二章:涙を知る少年
ある日、灯は廃墟となった旧図書館で、一人の少年・澪(みお)と出会う。彼は、誰にも知られずにそこに住み、古い本を読み漁っていた。
「君、泣いたことある?」
灯の問いに、澪は静かに頷いた。
「泣くと、心が少し軽くなる。痛みが、外に出ていく感じがするんだ」
灯は驚いた。そんな感覚、知らなかった。
澪は、灯に一冊の本を手渡す。それは、かつて人々が涙を流していた時代の詩集だった。
「涙は、心の言葉だよ」
その言葉が、灯の胸に深く刺さった。
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第三章:涙の理由
灯は、澪と過ごすうちに、少しずつ自分の感情に向き合うようになった。忘れていた記憶、押し込めていた痛み、言えなかった言葉——それらが、胸の奥で静かに揺れ始めた。
ある夜、澪が姿を消した。彼は、感情を持ちすぎた「異常者」として、感情管理局に連れて行かれたのだ。
灯は、彼が残した詩集を抱きしめながら、初めて声をあげて泣いた。
涙は止まらなかった。頬を伝い、胸を濡らし、世界が少しだけ色づいた。
その瞬間、灯は気づいた。
涙の理由は、忘れたくないものがあるから。
誰かを想う気持ちが、心に残るから。
そして、涙は——生きている証だから。
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灯はその後、感情を取り戻すための活動を始めた。涙を流すことを、恥ではなく誇りに変えるために。
彼女の涙は、世界に小さな波紋を広げていった。
お題♯涙の理由
9/27/2025, 1:31:28 PM