「心の片隅で」
なんでもないよ、が口癖になったのはいつだったっけ。口数少ないね、って言われるようになったのはいつからだったか。
昔はもっとお喋りでその日の出来事とか好きなものとか、あるいは嫌なこととか、なんだって話していた気がするのに。いつからか全部飲み込むのが癖になって、相槌ばっかり上手になってしまった。
自分の心の中を見られるのが怖くなったのはきっと悲しいことがあったからだ。一生懸命話したことに「へぇ。それが?」なんてそっけない反応ばっかり返されたら話すのだって嫌になる。楽しかったことを伝えて「そんなのが?」なんて言われてしまったらもう。好きなものも嬉しかったことも話せなくなってしまった。嫌だったことを愚痴って「そんなことで?」なんて。
誰に言われたのか、いつ言われたのか、なんの話題だったのか、そんなことはもう覚えていなくて、本当にそんな風に言われたことがあったのかすらあやふやだ。記憶力の良かったはずの私の記憶に残っていないことこそが忘れようとした防衛反応だったのかも知れない。っていうのは流石に被害妄想が過ぎるのかな。共感も理解もしてもらえなかったいつかの私の傷はもうとっくに治ってると思ってたけど、まだまだ完治なんて程遠かったみたいだ。
「どうしたの?なんか嫌なことあった?」
そっと寄り添ってくれる君の顔が心配に染まっているのに気がついた。
「なんでもないよ」
それでも口から出るのはいつも通りのこの言葉で、心の片隅で無邪気でお喋りだった子供の頃の私が泣きじゃくっているのにも、気がついていながら目を背けた。
12/18/2025, 2:35:50 PM