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【終わりにしよう】 2023/07/15

心臓の音がうるさい。

私の耳には、降りしきる雨音も、彼の言葉も、何も届いていなかった。

ただ、自分の心臓の音を除いて。

鼓動が波打っているのが、いやでもわかる。

その音が、私の脳内をさらにパニック状態に陥らせていく。



なんで?



どうして?



私は、ただあなたのことを思って、ずっとそばにいたのに。何が気に食わなかったって言うの?

私の方こそ、彼に何かもらったことなんて一度もない。

「愛してる。」の言葉でさえも、もらったことがない。

其れでも尊敬は私は彼のために、ずっと尽くしてきたのに。

なんでこんなことになっちゃったの?

なんで?



-嫌だ。

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

-死にたくない。



「死にたくない、よね。」

唐突に我に帰ると、彼はいつのまにか、さっきまで虚空を見ていた目を、今度はまっすぐ私にむけていた。

「わかってるよ。君が思っていることは全部。」

そのまま、彼は私に近づいてくる。逃げようと思っているのに、体が動かない。

彼はそのまま腕を回し、私のことを力強く抱きしめる。

まるで、もうどこにも私を逃がすまいとしているかのように。

「終わりにしよう。全部、全部。」

私の耳元で彼は囁いた。

さっき、わたしにいったのと同じように。

その瞬間、ずっと前から握られていた光を反射する何かが私の背中を突き刺した。

「愛してるよ。」

それが、私が彼から始めてもらった、唯一の贈り物だった。



7/15/2023, 11:44:59 AM