二本の足、二枚の鼓膜、そして一本の腕から伝わる振動を感じる。
ぼくはいま、電車に立っている。土曜日の急行列車。それに乗っている。せっかくの土曜日が仕事に潰されてしまって、言い切れない気持ちになる。爪先で床を叩いた。
ふと周囲の視線が気になった。なんとなく、ぼくの苛立ちが誰かに伝染した気がしたからだ。
ぼくのいる車両の端から端まで視線を動かす。誰もぼくを気にしていなかった。スマートフォンかイヤホンで、それぞれの世界に浸っていた。
だけど、とある男女だけは違った。
その二人は互いの世界に浸っていた。たぶん家族なんだろう。よくよく見ると、女の人の荷物にはマタニティマークがついていた。まだお腹はそこまで大きくない。
二人の口は忙しなく動き、時折弧を描いた。イヤホンのせいで全く聴こえないが、面白い話をしているのだろう。多分。
暫く彼らをぼうっと見つめていると、女の人がぼくのほうを見た。思わず視線を床に戻す。
ものすごく気まずくなった。二人の時間を邪魔してしまった感じで。また視線を戻すと男女は、先ほどのように談笑していた。変わらず口は弧を描いている。
お題:夫婦
11/22/2024, 11:07:47 AM