夏
高温多湿で嫌な気候の半面
人間の独特な思い出が残りやすい季節。
かくいう私も奇妙な思い出がある。
幼少期
私は友人が少なかった。
少しの暴力性と濃い感受性の豊かさ。
めんどうくさいガキであったことは
自分でよく理解している。
だから 海や夏祭りなど
数少ない友人は
私より仲の良い友人と遊びに行くため
飼っていたクーという中型犬と共に
遊ぶことが多かった。
クーは私によく懐いていて
家族を含む他の人によく唸る忠犬だった。
小学五年生
公園で最近引っ越してきた子と友達になった。
仮に名前をK子とする。
K子の家は転勤族だそうで短い交友期間であるだろうがたくさん遊びたい。
など話していたことをよく思い出す。
夏休み
K子は夏祭りには行きたくないと私に告げた。
私も同じことを思っていた。
今更出先での楽しみ方も分からなかったため
現地集合で海水浴に行くことにした。
当日
私はK子にクーとも仲良くなってほしい思いで
内緒で連れてきてしまった。
待ち合わせ場所にK子はおらず
多少待つことも覚悟して近くのベンチに座ろうとしたとき
なんの音もなく目の前にK子が現れた。
「お待たせ」
そう言う彼女に驚いて声も出ない私は
そばにクーがいないことに気づいた。
私には懐いていたとばかり思っていたために
クーが私から離れてしまったことにすっかり悲しくなってしまった。
ただ泣くことしかできず
K子は何が起きたか分からない様子だった。
海水浴どころではなくなってしまった。
「クーはずっとそばにいるよ。きっと。」
涙を切るように出されたそのたった一言に
私はたちまち安堵した。
涙で霞んだ視界にクーはいた。
笑顔のようにも見える顔で私の目の前にいた。
しかしK子はいなかった。
なぜいなくなってしまったのか
理解が及ばず新しい悲しみに心奪われながら
クーと共に砂浜を駆け回り
帰宅した。
何回
何日
公園に行ってもK子は来ない。
しばらくしてクーも死んでしまった。
私の大切なたった二人の友人は
もういない。
些細な違和感が
私を夏に閉じ込めるには
ちょうど良い奇妙さであった。
7/14/2025, 12:12:04 PM