その人はくるくるくると回転し、着地した場所は電車の中だったんだ。目が離せなかったんだけど、それはバク転にではなく、その人の口もとがすごく綺麗だったからなんだ。私の好みの口もとだった。そしてどうしてか、私は彼女の優雅な振る舞いと私に浴びせる見下すような視線を懐かしく感じて書き留めておかねばと文字を綴っている。
その電車は人が少なかった。それにしてもバク転をしながら乗車するなんてと驚いている乗客もいただろう。どうやってあの狭い扉の中に複雑な動きをしながら入っていったのか、私も見ていたはずなのに思い出せない。でもそんなことはどうでもよかった。ただあの唇が寝起きの私の隣で静かにその柔らかさを魅せてくれている朝を想像していた。
ふと顔を上げるともう彼女が乗った電車は出発していて(というかずっと前に出発していた)、1つ後の電車に乗った私は目の前で携帯をいじっているおばさんを見下ろしていた。おばさんは携帯をいじっているけど実はバク転をしながら電車に乗る人だったらどうしようと考えるとなんだか退屈な日常にたくさん可能性があるような気がしてきた。今日は私の頭に1本の白髪を見つけたんだけどそんなこともどうでもよくなってきた。
#春爛漫
3/28/2025, 9:22:33 AM