「春爛漫」
三月の終わり。それは一つの物語の終わりであると、私は時折思う。春になると人は変わる。良くも悪くも『春』に突き動かされるのだ。それが今生の別れであろうとも。
忘れもしない。共に最期を見届けると約束した妻が亡くなったのも春だった。その時の外の景色は、憎たらしいほどに見事に桜が咲いていたのをよく覚えている。
春は我々の運命を凝視している。その目が示すは悲愴で愉悦も含む到底理解不能なもの。しかし、彼らに同情の心は無い。彼らの仕事は見届けることただ一つ。私の思いも妻の死も直ぐに忘れて消えてしまう。
そんな桜も爛漫。何時ぞやの誰かが言っていた
『桜の木の下には屍体が埋まっている』
なんて言葉も言い得て妙だ。実際には埋まっていなくとも、間違いなく彼らは私たちを利用している。何が目的かは分からない。だが、それだけは確実に言えるのだ。
了
3/27/2025, 12:48:00 PM