青い薄紙を貼り付けた行灯を百個用意した。
新月の真夜中。行灯以外に明かりは無い。
人々が寝静まり、人ならざるものが闊歩する刻。
私は今から、俗に言う百物語を始めるのだが、
皆が思うような百物語とは少し違っている。
一話目は、夢のない少女のお話。
寝ること以外に価値を見いだせなかった少女が、
人に叱られ、励まされ、夢を見つける話。
そう、これは怪談では無い。
誰かの、誰のものでもない話。
胸が痛くなるような恋愛話。
昔を懐かしむような思い出。
…殆どは拗れた愛情の悲劇だったが。
とうとう九十九話を話し終わった。
即興故に時間がかかってしまったが、
幸いにも朝日が昇る気配は未だ無い。
残る行灯は一つだけ。
身体が青い光に照らされ、まるで死人のようだ。
これを消したらば、青行灯に会えるのだろうか。
それとも、怪談では無いからと無効にでもなるか。
震える身体を抑える。
冬の夜だ、寒気にでも襲われたか。
否、未だ見ぬ化物への恐れか。
いや違う。これは嘗て無いほどの興奮だ。
今まで私の話を聞いてくれる者など、
話す事を許してくれる者など居やしなかったから。
もはや私にとって、化物が現れるかはどうでもいい。
ただこの話を続けられるなら、何が起きても構わない。
「もう少し、聞いていてくれ。」
記念すべき百話目だ。さて、何を話そうか。
1/25/2025, 7:04:43 PM